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東京高等裁判所 昭和57年(行コ)270号 判決

控訴人

東京都知事

鈴木俊一

右指定代理人

青木隆蔵

外二名

被控訴人

松井英明

右訴訟代理人弁護士

中村護

町田正男

伊東正勝

右中村護訴訟復代理人弁護士

古川史高

被控訴人

井口美智子

藤田登

右両名訴訟代理人弁護士

小川信明

友野喜一

鯉沼聡

主文

原判決を取り消す。

被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

事実

第一  控訴人代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人ら代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二  当事者の主張は、次のとおり訂正、付加、補充するほかは、原判決事実摘示のとおりであり、証拠の関係は原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

原判決三枚目表九行目の「言渡され」の次に「、同判決はそのまま確定し」を加え、同七枚目表七行目の「原地」を「現地」に、同一三枚目表五行目の「の地積に相応」を「に相応するものであつて、本件仮換地(甲)、(乙)及び(丙)の合計地積は、本件分筆前従前地のうち宅地部分の地積に相当」に、同裏七行目の「(四)」を「(三)」に、同一四枚目裏五行目の「当時者」を「当事者」に改める。

二  控訴人の主張の付加、補充

1  従前地と換地との照応について

(一) 換地処分における従前地と換地との照応は、原則として、土地区画整理事業開始の時における状況を基準として判断すべきものと解されるところ、控訴人が昭和二四年四月四日付けでなした換地予定地指定処分(本件換地予定地指定処分。以下使用する略号は、原判決の用いた略号と同一である。)により、本件分筆前従前地に対する換地予定地として交付した本件換地予定地は、国電池袋駅西口前の商業地である本件分筆前従前地とほぼ同位置にあるいわゆる現地換地に相当するものであり、利用状況の照応の原則を満たしていた。

(二) 控訴人は、昭和三四年一〇月二二日付けで本件換地予定地指定処分を取り消し、本件仮換地指定処分をしたが、それによつて指定された本件仮換地(甲)(乙)(丙)の三筆の土地が本件分筆前従前地と照応していることについては、次のとおり補足する。

「仮換地指定処分により交付された利用価値が低い部分は仮換地の一部であり、大部分は従前地がそのまま仮換地に指定され、仮換地全体としては従前地に比し利用価値において大差ないときは、なお施行者の有する裁量権の範囲内の問題であり、当該処分は違法でないと考えられるところ、本件においては、本件換地予定地にあつた建築物等はすべて仮換地(甲)に移築されていてこれが主要な部分であり、本件仮換地(甲)、(乙)、(丙)をあわせた仮換地全体からみれば、従前地に比べてその利用価値において大差はないといえるから、この点からも、本件分筆前従前地と本件仮換地とは、照応しているということができる。」

(三) 昭和四二年三月二五日、本件分筆前従前地の二分の一の共有持分を有していた小林と原告ら共有者との間で、これを二分割する共有物分割判決(本件分割判決)がなされ、分筆登記がなされた。

その間控訴人は、本件分筆前従前地に存した私道部分について法九五条六項による特別処分をする必要から、私道部分と宅地部分とを図面上特定するため、本件分筆前従前地の中央部分を東西に走りその東端から北端まで鍵型にのびる私道部分を「八五四のB」とし、その私道部分で分けられた北側の宅地部分を「八五四の一」とし、南側の宅地部分を「八五四のA」とする分割をした。そして、控訴人はそれに伴い本件仮換地(甲)(乙)(丙)のそれぞれについて、従前地の「八五四の一」及び「八五四のA」に対応する部分を定める(「八五四のB」は、特別処分をするため対応する部分を定めない)ため、それぞれの仮換地に分割線を入れた仮換地指定変更調書を作成し、昭和四二年一月二五日に土地区画整理審議会に諮問し、その答申を得て、同年二月二一日に決定した。

本件分割判決は、本件分割前従前地に東西に走る分割線を入れて南北に二分したものであるが、その分割線は、控訴人が私道部分とした「八五四のB」とその北側の「八五四の一」との間の境界線及びその延長線と一致し、その内容は「八五四の一」(本件分筆後従前地(一)に相当する。)を原告ら共有者の共有とし、「八五四のA」(同(二)に相当する。)を小林の所有とし、「八五四のB」のうち右分割線の南側部分(同(三)に相当する。)を小林の所有とし、北側部分(同(四)に相当する。)を原告ら共有者の共有とするものであつた。

控訴人は、前記調書において仮換地(甲)に分割線を入れるについては、分割後の土地の形状や、各従前地と駅前広場との位置関係、従前の土地の間口比や道路との関係を十分考慮し、従前地と分割後の仮換地が地形、位置、間口、路線との関係でできる限り照応し、かつ相互に不公平が生じないよう配慮した。

(四) 従前地の分割に伴う本件仮換地の指定変更処分は、近く換地処分がなされることが予定されていた等の事情により、行われなかつた。

しかし、控訴人が特別処分をする必要上本件分筆前従前地を分割した分割線と本件分割判決による分割線とがたまたま一致するところから、控訴人は前記仮換地指定変更調書による分割後の仮換地は、本件分割判決により分割された後の従前地とそれぞれ照応しているものと判断し、右調書をそのまま用いて、本件仮換地(甲)(乙)(丙)をそれぞれ二分割する本件換地処分を行つたものであるから、本件換地と本件分筆後従前地とは、それぞれ照応しているものと考える。

2  法八九条に規定する利用状況及び利用状況の照応の意義

土地区画整理事業は、原則として、整理前の宅地(従前地)に存した権利関係に変動を加えることなく、整理前の各宅地又は借地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等に照応するようこれを整理後の宅地(換地)に移動させる方法であり、換地処分は物的状態の移替えという処分であつて、施行地区内の宅地を目的とする所有権又は借地権等の権利の客体である土地自体に着眼してなされるものであるから、その宅地に対する仮換地は、その権利者が何人であるかということとは無関係に、法八九条(照応の原則)の基準に従い決められるべきである。したがつて、同条に規定する照応とは、人的要素を拭い去つた権利関係の照応であり、利用状況の照応とは、従前地の客観的な利用状況(住宅として利用されているか商店として利用されているか等)を指すものと考えられる。換言すれば、照応の原則にいう利用状況は、従前地を誰がいかなる権利関係に基づいて利用しているかをその要素とするものではないから、利用状況の考慮においては右の事情を考慮に入れてはならない。

このことは、仮換地の指定後、施行者が従前地の建築物を仮換地に移築するについては、当該建物の所有者が従前地の上に占有権原を有していたかどうかを問うことなく行われていることからも明らかである。

3  建物の移築義務について

(一) いわゆる本換地予定的仮換地指定が行われ、これに伴い、施行者が仮換地に建築物等の移転を行つた場合には、一時利用地的仮換地指定の場合(この場合は、当初から再移転が予測されている)と異なり、施行者が建築物等の再移転の義務を負わないのが原則であつて、例外的に、公益上の必要から施行者がやむを得ず本換地予定的仮換地指定を変更する場合(この場合は従前地に対する仮換地そのものが物理的に変更される)に限り、施行者の責任で建築物等を移転すべき義務が生ずる。しかし、仮換地指定により一旦従前地の建築物等が仮換地に移築された後に従前地の分割等従前地についての私法上の権利変動に起因して仮換地指定変更処分が行われた場合には、施行者は、建築物等の移転義務を負うことはないものと解される。けだし、施行者に建築物の移転の義務が生ずるのは、もつぱら土地区画整理事業の遂行上建築物移転、除却の必要性が生じた場合に限られるのであつて、従前地につき私法上の権利変動が生じたことにより、建物の敷地たる仮換地の使用収益権が消滅し、建物除去の必要が生じたとしても、それは当事者でのみ解決すべき私法上の問題にすぎないからである。

(二) しかも、仮換地が指定され、建物が仮換地上に移築された後に、従前地が私法上の権利変動により分割、分筆された場合に施行者が従前地に対して定めた仮換地を従前地の分割に対応するよう分割し、複数の仮換地を定めても、場所的には変動がないから、区画整理事業の遂行上、従前の仮換地上の建物を変更後の(仮)換地上に移転する必要を見ない。

(三) もつとも、仮換地指定から換地処分に至るまでの間に、従前地の所有者が従前地の分割、分筆を行つた場合、それによつて当然に仮換地も分割されるのではなく、施行者が分割、分筆後の従前地に照応して仮換地を分割する処分を行うことにより、初めて分割、分筆後の各従前地に対応する(仮)換地が定まることになる。そして、この処分により初めて(仮)換地上に分割線が具体化し、既に従前地の分割によりその一部の占有権原を失つていた者が分割後の(仮)換地において使用収益をすることができなくなる部分が顕在化するため、従前地の権利者はあたかも仮換地の分割が原因で分割後の(仮)換地を使用できなくなつたように見えるところから、かような状態を生じさせた施行者は、これらの者が正当に占有権原を有する場所に建物を移転すべき義務があるかのような誤解を生ずる。

しかし、右の場合、分割後の(仮)換地を使用することができなくなつたのは、結局のところ、従前地の権利変動の結果であつて、当事者間で解決されるべき私法上の問題にすぎないから、施行者が移転、除却義務を負ういわれはない。

(四) これを本件についてみると、昭和三四年一〇月一一日付けでなされた本件仮換地指定処分により、被控訴人らの建物は本件仮換地(甲)上に移築され、原告ら共有者は本件換地処分がなされるまで、仮換地(甲)すなわち本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)となつた土地全体を建物の敷地として利用してきた。

本件換地処分は本件仮換地(甲)(乙)(丙)をそれぞれ二分割する形で行つたものであるが、これは換地処分前に従前地の共有物分割、分筆が行われた結果、施行者としては分割された各従前地ごとに別々に換地を定めて換地処分を行わなければならないところからなされたものであつて、被控訴人らが本件換地(甲)の(二)の上に存する同人ら所有の建物の移転義務を同換地の所有者である小林に対して負つたとしても、それは本件分割判決の結果、本件分筆後従前地(二)が小林の所有とされ、被控訴人らが当該従前地及びこれに対応する本件換地(甲)の(二)の占有権原を失つたことによるものであつて、建物の移転除却義務の発生は、専ら共有権分割に起因するもので、土地区画整理事業の必要上生じたものとはいえないから、控訴人は、本件換地(甲)の(二)上にある被控訴人らの建物を区画整理事業の一環として移転、除却すべき義務を負ういわれはない。

(五) 本件分割判決の結果、従前地が分割され、原告ら共有土地である本件分割後従前地(一)に対しては本件換地(甲)の(一)が、小林の単独所有となつた本件分割後従前地(二)に対しては本件換地(甲)の(二)がそれぞれ換地と定められたのであり、本件分筆前従前地及び本件仮換地(甲)に照応する換地は、本件換地(甲)の(一)ではなく、本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)であつて、従前地及び仮換地に形成されてきた事実関係は、この二筆の換地上に移行しているから、施行者としては、本件換地(甲)の(二)の上の建物を本件換地(甲)の(一)に再移転してはならないのである。

(六) 被控訴人ら所有の建物が本件換地(甲)の(一)に移転されないまま換地処分がなされてしまうと、持分の過半数を有しない同人らとしては、本件換地(甲)の(一)の利用からも排除され、これを現実に利用できずに終わる可能性があるとしても、従前地に照応した換地をいかに利用するかは共有者間の問題にすぎず、施行者が関与すべき問題ではない。本件換地(甲)の(一)を被控訴人らが利用できない可能性が生じたのは、被控訴人らが原告ら共有地につき過半数の持分を有していないがために他ならない。

三  被控訴人らの反論及び主張の補充

1  照応の原則違反について

(一) 本件換地処分は、本件分割前従前地が本件分割判決よりその持分に応じて二分割されたので、これに対応させて本件仮換地(甲)(乙)(丙)をそれぞれ二分割してしたのではなく、それに先立つてなされていた仮換地の分割に従つてなされたものである。

(二) 従前地が二分割されても当然には仮換地が二分割されることにはならず、仮換地が分割されない限り分割後の従前地の所有者らは仮換地の使用収益権を準共有している状態にあるから、本件分割前従前地の共有物分割に伴い本件仮換地(甲)(乙)(丙)を分割するに当つても、これらを有機的一体のものとして観念し、現実の利用状況に応じた合理的な分割のしかたをすべきであり、従前地が分割されたからといつて、本件仮換地((甲)(乙)(丙)をそれぞれ独立のものとして機械的に分割するのは誤りである。

2  仮換地指定変更処分の必要性について

仮換地指定後従前地が分割して売買され、その旨届出があつたときは、分筆後の各従前地に照応する仮換地部分が裁量的判断を容れる余地を残さない程度に特定しているものとはいえないから、施行者は、分割後の従前地各筆に照応する仮換地の位置及び範囲を指定するため、先になした仮換地指定を変更して仮換地のどの部分が分筆後の各従前地に照応するかについての判断権の行使をする必要がある。同様に、仮換地指定後共有地である従前地が共有物分割により二筆の土地となつたときでも、これについて一個の換地を与えることができず、必ず二個の換地を与えるべきであるとするならば、それに先立つて、仮換地のどの部分が分割後の各従前地に照応するかを仮換地指定変更処分によつて明らかにする必要がある。

したがつて、本件換地処分については、これに先立つて仮換地指定変更処分をすべきであつたのに、これをしないでなされた違法がある。

3  建物移転義務について

土地区画整理事業は、換地処分の方法をその本質的手法として土地の区画形質の変更及び公共施設の新設変更を行う事業であるが、換地処分は右事業の最終処分であるから、土地区画形質の変更及び公共施設の新設変更に関する工事が完了し、従前地の使用収益状態を換地に円滑に移転し得る状態になつた後でなければすることができない。前記のとおり、控訴人は本件仮換地指定処分後になされた本件分割判決の結果仮換地指定の変更処分を行うべき義務があり、したがつて、それに伴う建物の移転除去等により従前地及び仮換地における利用関係と同一の利用関係を変更後の仮換地上に保証したのちに換地処分をなすべきであるのに、右手続をしないまま本件換地処分をしたものであるから、同処分は法一〇三条二項に違反する違法なものである。

理由

第一本件事業の施行区域告示以来本件換地処分に至るまでの本件分筆前従前地の権利関係の変遷、本件分筆前従前地、本件換地予定地及び本件仮換地の利用状況、本件事業開始以来本件換地処分がなされるまでの本件事業の経緯については、原判決理由の一に説示のとおり(但し、原判決二八枚目表九行目の「原本」の前に「乙第一六号証の一、二」を加え、同裏六行目の「今井康義」の次に「、当審における証人刈部行雄の証言」を加える。)であるから、これを引用する。

第二そこで、本件換地処分が適法になされたか否かについて判断する。

一被控訴人らは、本件分筆後従前地(一)と本件換地(一)とは全く照応していないから、本件換地処分は、法八九条一項に違反し、違法である旨主張する(原判決六枚目表五行目ないし同裏一〇行目、同七枚目裏七行目ないし末行)ので、先ず、この点について検討する。

1  前示(引用する原判決二八枚目表二、三行目、同裏一〇行目ないし二九枚目表四行目)のとおり、昭和二四年四月四日付けの本件換地予定地指定処分により本件分筆前従前地につき本件換地予定地が指定されたが、〈証拠〉によれば、本件換地予定地は、本件分筆前従前地とほぼ位置を同じくするいわゆる現地換地であつて、その減歩率は約三六パーセントと国電池袋駅西口付近の減歩率と異ならないことが認められるから、法八九条一項に規定する照応の原則の反するところはないものと考えられる。

2(一)  前示(引用する原判決二八枚目表二、三行目、同裏八行目及び同三二枚目表三行目ないし同三三枚目裏一行目)のとおり、控訴人は、昭和三四年一〇月二二日付けで本件換地予定地指定処分を取り消して、新たに本件分筆前従前地の仮換地として、本件換地予定地から区画街路に組み込まれる部分を除いた残り(原判決添付別紙第一図の太実線で囲まれた部分から③の部分を除いた地積約八八坪の部分)を本件仮換地(甲)、東京都所有地の換地予定地である街廓番号一一三符号八五四(乙)地積約六九坪を本件仮換地(乙)、街廓番号一一三符号八五四(丙)地積約三三坪を本件仮換地(丙)とする本件仮換地指定処分をした。

(二)  そして、〈証拠〉によると、本件分筆前従前地は、国電池袋駅西口前の繁華な場所に位置するのに対し、本件仮換地(乙)及び(丙)は、同一工区内の商業地域内にあるが、本件分筆前従前地から南方直線距離で約五〇〇メートル離れた場所に位置し、昭和四五年度固定資産台帳の評価によれば、一平方メートル当たり、本件換地(甲)の(一)が約七〇万円、同(乙)の(一)が五万七〇〇〇円、同(丙)の(一)が四万六〇〇〇円であること(評価額は、当事者間に争いがない)及び付近には商店は極めて少ないこと、本件仮換地(乙)は、前示のとおり地積約六九坪の長方形の土地であり、北側で幅員一八メートルの道路に接していること、本件仮換地(丙)の地積は前示のとおり約三三坪で、同地は幅員六メートルの公道に四・七三メートル接する奥行約三〇メートルの鍵形の土地であることが認められ、右認定の事実によれば、本件仮換地(乙)及び(丙)の商業地としての利用価値は本件分筆前従前地に比べ、かなり劣るとみられ、特に仮換地(丙)は間口の広さ及び地形からその利用はかなり限定されるものと思われるから、これらの事実だけから考えると、仮換地(乙)及び特に仮換地(丙)については、本件分筆前従前地と、位置、利用状況及び環境において相当差異があり、果たして従前地と照応しているということができるかどうか疑問がないではない。

(三)  しかし、本件仮換地指定処分においては、一筆の土地である本件分筆前従前地の仮換地として、仮換地(甲)(乙)(丙)の三筆の土地が指定されたのであるから、従前地と仮換地とが照応しているかどうかを判断するについては、右各仮換地がそれぞれ従前地と照応しているかどうかを個別に判断するのではなく、これら三筆の仮換地の位置、地積、利用状況、環境等を総合的に評価して、従前地と照応しているか否かを判断すべきである。

そして、本件分筆前従前地、本件換地予定地及び本件仮換地の利用状況、本件仮換地指定処分がなされた経緯並びに本件換地予定地上の建物の本件仮換地(甲)への移築については、引用する原判決二九枚目表末行ないし同裏九行目、同三二枚目表五行目ないし同三三枚目表七行目及び同九行目ないし同裏一行目記載のとおりであり、本件仮換地(乙)及び(丙)の位置、形状、地積は前示のとおりであり、〈証拠〉によれば、本件分筆前従前地ないし本件換地予定地の関係権利者も、本件換地予定地のうち私道部分が区画街路に編入されるにつき、清算金の交付よりも、むしろ飛換地ではあつても代償土地の交付を望み、本件仮換地(乙)及び(丙)が本件分筆前従前地の仮換地として指定されることを了承していたこと、本件施行地区内の平均の減歩率は約二七パーセント、池袋駅西口付近の減歩率は三五ないし三六パーセントであるのに対し、仮換地(乙)及び(丙)の指定によつて本件仮換地全体としては減歩がないことになることが認められるところ、これらを要するに、①本件仮換地指定処分により、仮換地の主要部分は従前地と同一の場所に指定されていること、②仮換地(甲)の利用状況は、本件分筆前従前地又は本件換地予定地の利用状況と全く異ならないばかりか、本件事業による区画街路の設置により利用価値は却つて増進していること、③区画街路の設置により私道部分に相当する役割は区画街路が担うことになるから、たとい本件仮換地(乙)(丙)が追加指定されなくとも、実際上従前の換地予定地と比較して関係権利者に不利益となるものではなかつたこと、④本件仮換地(乙)及び(丙)は、区画街路の設置に伴い池袋駅付近の予定減歩率との均衡を保つため追加指定されたものであり、この指定により、本件仮換地については減歩がなくなつたこと、⑤本件仮換地(乙)の利用価値は本件分筆前従前地に比べれば劣るものの、なお相当程度の有効利用が見込まれることとなるのであるから、それらの諸事情を総合勘案すれば、本件分筆前従前地と本件仮換地とはほぼ同一の条件にあるということができるし、仮に差異があるとしても、その差異は施行者の裁量の範囲内にとどまるものということができる。のみならず、本件仮換地(乙)及び(丙)が追加指定されたのは、関係権利者の要望によるものでもある点を考慮に入れると、本件仮換地指定処分は、法に規定する照応の原則にもとるものではないというべきである。

3  そこで、本件分筆後従前地(一)と本件換地(一)との照応について判断する。

(一) 法八九条に規定する照応の原則は、仮換地の指定後に従前地が分割され、その分割後の各従前地について(仮)換地を指定する場合にもできる限り尊重されるべきものと解するのが相当である。しかし、右の場合には、事柄の性質上、原則として、従前の仮換地をそれぞれ分割後の従前地と照応するよう分割すれば足り、新しく宅地を求めて仮換地の指定を行う必要はないものと解される。

(二) 昭和四二年三月二五日本件分割判決が言渡され、そのとおり確定したが、同判決は、本件分筆前従前地をほぼ東西に走る直線で二等分し、その南側部分を小林の所有地とし、北側部分を原告ら共有者七名の共有とするものであつた(このことは、当事者間に争いがない)。

そして、〈証拠〉によれば、控訴人は本件分筆前従前地に存した私道部分につき法九五条六項による特別処分をする前提作業として、その私道部分とその余の宅地部分とを区分指定し、これを登記簿上明らかにするため、本件分筆前従前地につき、そのほぼ中央部分を西端から東端まで東西に走り、そこから鍵形に北端に至る私道部分を「八五四のB」とし、これによつて南北に二分された北側の宅地部分を「八五四の一」とし、南側の宅地部分を「八五四のA」とする分割をし、右従前地の分割に対応して、「八五四の一」及び「八五四のA」のそれぞれの地積の割合に応じて本件仮換地(甲)、(乙)、(丙)をそれぞれ二分割する旨の内部決定をしたこと、右私道部分の「八五四の一」との間の東西に走る境界線及びその延長線と、本件分割判決による原告ら共有者の共有地及び小林の所有地の境界線とは、一致することが認められる。

また、本件分筆前従前地について、本件分割判決に従つて昭和四二年九月三〇日分筆登記及び同年一一月二〇日持分移転登記がなされ、北側の八五四番一宅地三九六・三九平方メートルが原告ら共有者の共有地とされ、南側の同番二宅地三九六・四二平方メートルが小林の所有地とされたこと、控訴人は特別処分の対象となる私道部分を登記上特定するため、昭和四三年二月一五日、職権により、右の八五四番一の宅地のうち「八五四の一」の部分は八五四番一(本件分筆後従前地(一))に、「八五四のB」に属する部分は八五四番四に、五八四番二の宅地のうち「八五四のA」の部分は八五四番二(本件分筆後従前地(二))に、「八五四のB」に属する部分は八五四番三にそれぞれ分筆する分筆手続をしたこと、右のような従前地の分割により本件仮換地をそのまま換地として指定することができなくなつたことから、控訴人は、昭和四三年五月一一日付けで前示の内部決定のとおり、仮換地(甲)(乙)(丙)をそれぞれ分割する本件換地処分をし、本件分筆前従前地(一)に対しては本件換地(甲)の(一)、(乙)の(一)、(丙)の(一)を、本件分筆後従前地(二)に対しては本件換地(甲)の(二)、(乙)の(二)、(丙)の(二)を交付したことは、前示並びに引用の原判決三四枚目表四行目ないし七行目及び同三五枚目表四行目ないし同裏一〇行目のとおりである。

更に、〈証拠〉によれば、本件分割後従前地(一)及び(二)はいずれも東西に細長い土地であるのに、本件仮換地(甲)がほぼ南北に走る分割線で東西に分割されたのは、従前地と同様にこれを南北に二分すると、南側部分は三角地となり北側部分に比して利用効率が悪くなり、東西に分割する以外に公平な結果が得られないためであること、東西に分割された仮換地(甲)のそれぞれの本件分筆前従前地(一)及び(二)への割振りについては、各従前地と池袋駅との位置関係や道路との関係、各従前地の間口比等の要素を勘案して、東側部分を本件分筆前従前地(一)に、西側部分を本件従前地(二)にそれぞれ対応させたことが認められる。

(三) そして、本件分割前従前地と本件仮換地(甲)(乙)(丙)とが照応していることは、前示のとおりであるから、本件仮換地の範囲内で分割後の従前地と分割後の(仮)換地とがそれぞれ照応するようこれを分割すれば足りるものと解される。

しかも、本件分割後従前地(一)及び(二)は位置関係、地積において異なる以外は、土質、水利、利用状況、環境等照応の有無を判断するにつき勘案すべきその他の諸要素において全く異なるところはないから、本件分筆後従前地(一)と本件換地(一)との照応の有無を判断するについては、いちおう、各換地と各従前地とがそれぞれ位置及び地積において照応し、かつ権利者相互間においても均衡がとれ、公平妥当なものとなつているかどうかの観点のみから行えば足りるものと解される。

(四) そうすると、前示のとおり、控訴人は本件分筆後従前地(一)及び(二)のそれぞれの地積に応じてそれぞれ仮換地(甲)(乙)(丙)を分割したこと、本件仮換地(甲)を二分してこれを各従前地に対応させるについては、分割後の土地の形状、各従前地と池袋駅や道路との関係、間口比を十分勘案のうえなされたことが認められるから、照応判断のうえで欠けるところはなく、また、本件換地(一)と本件換地(二)の相互の均衡が失われていることもないものと解される。

(五) もつとも、〈証拠〉によれば、本件換地(乙)の(一)は面積が一三四・一四平方メートル、間口八メートル、奥行一六・六一メートルであること、本件換地(丙)の(一)は面積六二・八四平方メートルであるが、間口がわずか二・三六メートルであるのに奥行が一五・八三メートルで、かつそこから直角に曲つて約一三メートルある鍵形をした不整形な土地であること(本件各換地の面積及び本件換地(丙)の(一)は間口が狭く、鍵形をした土地であることは、当事者間に争いがない)が認められ、右事実によれば、本件換地(乙)の(一)は宅地としての利用が十分可能な土地であるのに対し、本件換地(丙)の(一)は、土地の面積及び形状の点から、宅地としての利用は極めて限定された土地であるといわざるを得ない。

しかし、従前地が数筆ある場合に、これに対して一筆の換地を定める一括換地は、本件のように共有地が二筆に分筆されその所有者を異にするに至つた場合には許されないこと、位置と地積の点を除いては照応判断において考慮すべき諸要素において異なることのないのに、被控訴人ら主張のように、原告ら共有者の共有地である本件分筆後従前地(一)に対しては本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)を換地として交付し、小林所有の本件分筆後従前地(二)に対しては本件換地(乙)の(一)、(乙)の(二)、(丙)の(一)及び(丙)の(二)と換地として交付するようなことは、後者を合理的理由なくして著しく不利益に取り扱つたことになり、却つて照応の原則や公平の原則に反することになる(被控訴人は、そのような不利益は金銭清算によつて調整すれば足りる旨主張するが、利益の均衡はできる限り換地指定の段階において実現されるべきものであつて、著しく均衡を失する換地指定はそれ自体違法であり、金銭清算によつて正当とされるものではない。)ことを思えば、本件仮換地(甲)(乙)(丙)をそれぞれ二分して原告ら共有者及び小林に交付したのは、けだしやむを得ない措置であり、これに加えて前示(2(三))の諸事情をも勘案するときは、たとい、仮換地(丙)の二分割によりその利用価値が更に低下したとしても、本件換地(一)の全体について総合的に判断すれば、なお本件換地(一)は本件分筆後従前地(一)と大体において同一の条件にあるということができるし、本件換地処分が被控訴人らにとつて特に不利益なものであるということもできないから、この点についての被控訴人らの主張は失当である。

二被控訴人らは、本件換地処分は利用状況の照応を欠くもので違法である旨主張する(原判決六枚目裏末行ないし七枚目裏三行目)。

1  換地処分は、土地区画整理の必要から、もつぱら土地の位置、形状、広狭、地価等土地自体の具有する諸要素に着目してなされるいわゆる対物処分たる性格を有するから、従前地と換地又は仮換地との照応判断の要素とされている利用状況についても、誰がこれを現実に利用しているかという人的要素を捨象した土地自体の客観的な利用状況(住宅として利用されているか、商店として利用されているか等)を指すものであり、その土地を、所有者自ら利用しているか他人に利用させているか、いかなる権原に基づいて使用しているか等の主観的事情は、照応の原則にいう利用状況の判断においては考慮すべきではないと解するのが相当である。

2  前示(引用する原判決二九枚目表末行ないし同裏九行目及び同三三枚目表九行目ないし同裏九行目)のとおり、本件分筆前従前地、換地予定地及び仮換地(甲)を現実に使用してきたのは原告ら共有者又はその前主であり、小林は単なる共有持分権者としてこれを現実に使用したことはないにせよ、同人ら同一土地を共有していたのであるから、その分割前において両者の間で、照応判断の要素として考慮されるべき土地(従前地)の客観的利用状況について差異が生ずる余地はなく、本件分割判決による分割後も、本件分割後従前地(一)及び(二)は隣接地であり、いずれも池袋駅西口前の商業地に存し、その客観的利用状況に格別の差異があつたとは認められないから、利用状況の照応違反をいう被控訴人らの主張は、その余について判断するまでもなく失当である。

3  被控訴人らは、本件分割判決は、本件分割前従前地の利用状況を勘案し、原告ら共有者が従来から現実に利用してきた部分を原告ら共有者の土地としており、本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)はほとんど右土地に包含されているから、現実の利用状況を尊重するためには、本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)の双方を原告ら共有者に交付すべきである旨主張する(原判決八枚目表一行目ないし同裏二行目)。

しかし、本件分割判決は、既に仮換地が指定され使用収益が停止された後の従前地について図面上の分割をしたものにすぎず、仮に同判決による分割が従前地ないし仮換地の主観的利用状況を勘案してなされたものであるとしても、右分割により原告ら共有者及び小林の各所有とされた本件分割後従前地(一)と同(二)との間には、照応原則の適用に当たり考慮されるべき客観的利用状況その他の諸要素において格別の差異があつたとは認められない。したがつて、右各従前地に対する換地の指定に当たつては、照応の原則に従い両者の間に均衡のとれた換地を定めなければならないのであつて、従前地ないし仮換地の主観的利用状況を考慮するにしても、被控訴人らが主張するような著しく均衡を失した換地指定を行うことは許されないところというべきである。

三被控訴人らは、本件換地処分は、従前地ないし仮換地の利用状況を無視し、小林と原告ら共有者相互間の公平を考慮せず、いわゆる横の関係における照応を無視してなされた違法のものである旨主張する(原判決七枚目裏四行目ないし六行目及び同八枚目裏三行ないし九枚目表八行目)。

1  法は、換地は従前地と照応するよう定めなければならない旨定めるが、このことは宅地の価値を左右する諸々の要素を総合的に勘案して換地が従前地と大体同一条件にあつてほぼ等価値となるよう定められるべきことを意味するとともに、権利者相互間においても不均衡のないよう公平に定められるべきことを意味することは、いうまでもない。

2  しかし、前示(二の1)のとおり、法の規定する照応の原則における利用状況とは、従前地を現実に誰が利用しているかにかかわりなく土地自体の客観的利用状況をいうのであるから、従前地の利用状況において共有者である小林と原告ら共有者との間に差異が生ずる余地はないし、従前地が分割された後も、本件分割後従前地(一)と(二)との間に格別の差異はなかつたものである。したがつて、本件仮換地を従前地の地積に応じて分割してなした本件換地処分は、原告ら共有者と小林との間に何らの不公平な結果をもたらすものではない。

3  被控訴人らは、本件換地処分は、本件換地の現実の利用において原告ら共有者間に差異をもたらし、被控訴人ら三名とその余の共有者とを不公平に扱うもので違法である旨主張するが、前示(引用する原判決三五枚目表一〇行目ないし同裏二行目)のとおり、本件換地(甲)の(一)、(乙)の(一)及び(丙)の(一)は、原告ら共有者の共有に係る本件分筆後従前地(一)に対する換地として、原告ら共有者全員に交付されたものであり、別段被控訴人ら三名を除くその余の共有者に本件換地(甲)の(一)を指定し、被控訴人ら三名には本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)を指定したわけではなく、三筆の本件換地(一)をどのように利用するかは、原告ら共有者間の協議(協議が調わない場合には、民法二五二条の規定に従い、持分の価格の過半数による決議)によつて決めるべきものであり、被控訴人らが本件換地(甲)の(一)を利用できるかどうかは、ひとえに右協議又は決議の結果にかかつており、協議又は決議の結果その利用ができなかつたとしても、そのことは本件換地処分と無関係であつて、本件換地処分は、何ら公平の原則に触れるところはない。

四被控訴人らは、本件については、先ず仮換地指定変更処分をなすべきであつたのにこれをしないでいきなり換地処分をした点に手続違背があり、違法である旨主張する(原判決五枚目表四行目ないし六枚目表四行目)。

1(一)  仮換地指定処分は、工事のために必要がある場合又は換地処分を行うため必要がある場合に行うものであり(法九八条一項)、したがつて、いつたん仮換地が指定された後にその指定を変更する処分も、同様の必要がある場合に行われるべきものと解される。

本件仮換地指定処分は、換地処分のための仮換地指定に該当するところ、このような仮換地指定処分は、土地区画整理事業の施行が相当の期間を要するところからあらかじめ換地計画を定め、これに基づいて施行地区内の関係権利者に将来換地となるべき土地を仮に指定し、関係権利者の不安を解消し、早期に権利関係を安定させるとともに、施行者が行うべき従前地上の建築物の仮換地への移転等の諸手続を円滑に行うことができるようにするためなされるものであるから、かかる必要がない場合には、仮換地指定後に従前地につき権利変動があつたからといつて、施行者は、これに応じて必ず仮換地指定変更処分をしなければならないものではなく、従前地の分割が行われたというだけで、仮換地指定変更処分を行わなければ換地処分を行うことができないものではない。

(二)  もつとも、東京都市計画復興土地区画整理事業施行規程二六条には「法第百三条第四項の公告前において、仮換地または換地の一部に該当する従前の土地について、所有権の移転または地上権若しくは賃借権の設定の登記をした者は、前権利者と連署(従前の土地全部について分割して二人以上の者が権利を取得したときは、取得した者の全員の連署で足りる。)し、従前の土地に対する仮換地または換地の部分を定めて届け出なければならない。」旨規定しているから、従前地の権利変動に伴いこれに対応する仮換地または換地の部分が当事者間の合意で定められたときは、施行者は、これに応じて(仮)換地指定変更処分をすることが予定されているものと考えられるが、前示(引用する原判決三四枚目裏四行目ないし同三五枚目表三行目)のとおり、本件においては、右届出はなされず、原告ら共有者から、昭和四二年八月一九日付けで東京都北部区画整理事務所長あてに、従前地の共有物分割に伴う仮換地指定の変更について分割当事者間で合意ができないので特別の配属をされたい旨の書面が提出されたにとどまるから、施行者としては、これに応じて仮換地指定変更処分をしなければならない理由はない。

(三)  また、前示のとおり、本件仮換地指定処分に伴い、既に昭和三八年八月ころ、ほぼ本件換地予定地に相当する部分に存した建物を本件仮換地一杯に移築する工事が完了し、しかも〈証拠〉によれば、本件分割判決による従前地の分割当時、既に本件施行地区全体の工事が完了し、換地処分を行うための内部的手続もほぼ完了して、間もなく換地処分が行われる予定となつていたことが認められるところ、換地処分により関係権利者の権利関係は終局的に安定するから、あえてこの時期に仮換地指定変更処分を行う必要はなかつたと考えられるのであつて、かかる事情のもとでは、控訴人が従前地の分割に応じて仮換地指定変更処分をせず、直ちに本件換地処分を行つたことに格別咎めるべき点はない。

2  なお、被控訴人らは、仮換地指定変更処分により、分割後の従前地と仮換地との照応を明らかにする必要があつたと主張するが、前示のとおり、本件にあつては、既に建物の移築も完了し、間もなく換地処分を行うことが予定されていたところ、この換地処分により分割後の従前地と(仮)換地との対応関係は明らかになるのであるから、あえて仮換地指定変更処分をせず、直接本件換地処分をした控訴人の措置には何ら違法なところはなく、この点の被控訴人らの主張もまた失当である。

五被控訴人らは、本件換地処分は、土地区画整理工事が完了していないのになされたもので、違法である旨主張する。

1  土地区画整理事業は、換地処分の方法をその本質的手法として、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設変更を行う事業であり、換地処分は、土地区画整理事業の工事が完了したのち、権利者に対し、従前の土地に代え、これに照応した整然と区画され土地(換地)を割り当て、これに従前の権利を帰属させる処分であるから、換地処分の時点において換地が確定していること及びこれが現実に使用できる状態になつていることが必要である。したがつて、施行者は換地処分までに、原則として換地計画に係る区域の全体について、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設変更に関する工事を完了し、従前地上にある建築物等を換地となるべき土地に移転しておき、換地処分と同時に、従前地と照応した換地を現実に使用できるようにしておかなければならない。法は、このために仮換地の制度を設けるとともに、従前地の建築物等の移転、除却(法七七条)や従前地に対する土地区画整理事業の工事を行うことができることとしている(法八〇条)。

2  前示のとおり、本件仮換地(甲)については、昭和三八年ごろまでに建物の移築が完了し、原判決添付別紙第二図のとおり、原告ら共有者がその全体を占有使用していたところ、本件換地処分は、本件仮換地三筆をそれぞれ二分してその一を原告ら共有者に、その余を小林にそれぞれ換地として交付したものであつて、本件仮換地(甲)については、原判決添付別紙第二図及び第三図のように、被控訴人藤田の建物を二分する形で境界線を引き(被控訴人藤田の建物を二分する位置に本件換地(甲)の(一)と(甲)の(二)の境界線があることは、当事者間に争いがない。)、東側を本件換地(甲)の(一)として原告ら共有者に交付し、西側を本件換地(甲)の(二)として小林に交付した。しかし、本件換地(甲)の(一)には他の共有者の建物が現存し、被控訴人らとしてはこれを直ちに使用することができず、また、被控訴人松井、同井口の所有建物及び同藤田の所有建物の一部は小林所有の本件換地(甲)の(二)に取り残されているから、小林から建物収去を求められれば、被控訴人らとしては、これを自己の負担で移転せざるを得ない状態にある(もつとも、前示(引用する原判決三〇枚目表三行目ないし七行目及び三一枚目表九行目ないし同裏末行)のとおり、本件分筆前従前地については、昭和二七年三月一七日、須藤が当時の所有者荻阪及び小林から借地権の設定を受け、その後、昭和三七年八月三一日、小林を除く本件分筆前従前地の共有者並びにその地上建物の所有者及び賃借人との間に和解契約を締結し、須藤は、小林を除く本件分筆前従前地の共有者の共有持分権上の賃借権を放棄し、また、本件分筆前従前地が将来分筆され、小林の単独所有の土地ができることがあつても、須藤は、小林から設定を受けている借地権に基づき、当該土地につき前記建物の所有者及び賃借人に対し、土地明渡しの強制執行をしない旨を合意したから、本件換地(甲)の(二)についても、もし須藤の小林に対する借地権が存続しているとすれば、被控訴人らはその借地権を援用して、小林からの明渡請求を排斥できるものとされる余地はある。)。

3  しかし、土地区画整理事業の施行に伴い建築物等の移転、除却の必要が生ずるのは、仮換地を指定した場合、従前地について使用収益権を停止した場合又は公共施設の変更若しくは廃止に関する工事を施行する場合であり、これらの場合には、移転、除却の必要性は、もつぱら土地区画整理事業施行の必要から生じたものであるから、その移転、除却の実施は建築物等の所有者に対する施行者の義務である反面、建築物等の移転又は除却期間後は、当該所有者は、施行者による直接施行を受忍する義務を負う。そして、前示のとおり、換地処分のための仮換地指定は、従前地の使用収益権を仮換地に移行させ、従前地に存する建築物等を仮換地に移築して、従前地の権利者が換地処分と同時にこれを従前地と同様に使用できるようにしようとするものであるから、いつたん仮換地上に建築物等が移築された後は、施行者が例外的に公益上の必要からやむを得ず仮換地指定変更処分を行うことにより従前の仮換地の使用収益権が停止された場合を除き、施行者に再度仮換地上の建築物等を移転、除却すべき義務が生ずるものではないと考えられる。

したがつて、従前地に存する建築物等が仮換地に移築された後に、従前地における私法上の権利変動に伴い仮換地指定変更処分がなされ、当事者が従前の仮換地の全部又は一部について使用収益権原を喪失したため、当該仮換地の使用収益権者に対し、その仮換地上にある自己所有の建築物等の移転、除去義務を負つたとしても、その義務は土地区画整理事業の必要上生じたものではないから、施行者がその移転、除却の義務を負ういわれはない。

4  前示のとおり、本件においては、既に本件仮換地(甲)への建物の移築は完了しているし、本件換地処分により被控訴人の所有建物が小林所有の本件換地(甲)の(二)上に取り残されることとなつたため、被控訴人らが小林に対して建物収去義務を負うことになつたとしても、それは小林に対する私法上の義務にすぎず、区画整理事業の遂行上施行者に対する関係で移転、除却の必要が生じたのではないから、施行者たる控訴人がこれを移転、除却しなければならない理由はない。したがつて、本件換地処分は工事未完了のうちになされたもので違法であるとする被控訴人の主張は、失当である。

5  もつとも、従前地が分割されても、仮換地は当然に分割されるものではなく、分割後の従前地の所有者らは仮換地が分割されるまでは仮換地の使用収益権を準共有している関係にあり、したがつて、当事者間の協議等により共有地たる従前地の全部の使用を許されていた者は、その後従前地の分割により、他の共有者の単独所有地となつた部分についての支配権と喪失した後も、仮換地の使用収益権は未だ準共有の状態にあるため、仮換地についてはなおその全部について使用できたところ、その分割がなされた途端、分割後の他の共有者の従前地に対応する(仮)換地の部分の使用収益権を失うことになる。

本件の場合においても、被控訴人らは、本件分筆後従前地(二)についての占有権原を有しないものとすれば、本件換地処分がなされると同時に本件換地(甲)の(二)の使用収益権を喪失し、同地上に存する建物の移転収去の義務を負うこととなるため、一見すると右建物の移転、収去義務は共有物分割に起因すると同時に土地区画整理事業にも起因するようにみえる。

6  しかし、換地処分は、従前地の権利関係をそのまま換地のうえに移行させる処分であり、従前地の使用収益権原は換地処分によつて何ら影響を受けるものではなく、仮換地指定処分も、換地処分の公告の日まで従前地の使用収益権を仮換地に移行させるにすぎないから、換地の権利関係ないし仮換地の使用収益権は、すべて従前地の権利ないし使用収益権に由来し、従前地についての権利が失われるときは換地又は仮換地に対する権利も失われるのであつて、前示のような従前地についての権原を既に喪失したのに仮換地の使用収益権を失わないというような事態は、従前地の分割その他の権利変動により仮換地が当然には分割されないことから生ずる過渡的な現象であり、施行者としては、既に従前地が分割され、複数の権利者が生じた以上、いずれ(仮)換地を分割しなければならないのであるから、右(仮)換地の分割は、従前地についての権利変動を(仮)換地について顕在化させたにすぎない。すなわち、従前地の分割の結果(仮)換地の分割が行われると同時に従前使用収益をなし得た仮換地の一部の使用収益権を喪失するのは、(仮)換地の分割によるものではないから、施行者としては従前の仮換地上の建物を分割による当該建物の所有者(仮)換地上に移転すべき義務はない。

7 なお、被控訴人らは、本件換地処分は被控訴人らの仮換地上の利用状況を同人らに対する換地上で確保しないままなされたもので違法である旨主張するが、前示のとおり、照応判断における利用状況は、宅地の客観的利用状況を指し、従前地上の建物の所有者がその敷地の正当な使用権原を有するかどうかとは無関係であつて、被控訴人ら又はその前主が本件分筆前従前地又は本件換地予定地上に所有していた建物は、既に将来換地となるべき地に移築されていて、被控訴人らは本件換地処分と同時に、従前地に照応した換地を現実に使用し従前の利用状況を確保できるのである。

しかも、被控訴人らの建物が小林に対する換地上に残置されることになつたのは、前示のとおり、本件事業とは関係がないから、いずれにせよ、被控訴人らの主張は失当である。

8  右のように解すると、換地をいかに利用するかは、共有者が民法二五二条の規定に従い持分の価格の過半数で決することとなるため、本件換地(甲)の(一)の持分の過半数を有しない被控訴人らは、その利用から排除され、従前地に照応した換地を現実に利用できずに終る可能性があることは否定できない。

しかし、このような事態は、共有物の性質上生ずるのであつて、本件事業によつて生ずるのではない。本件の場合とは逆に、本件換地(甲)の(一)が小林に交付され、換地(甲)の(二)が原告ら共有者に交付されたと仮定しても、被控訴人らの持分は過半数に達しないから、右小林の換地から排除された被控訴人以外の共有者らが民法二五二条の規定に従い持分の価格の過半数をもつて既に被控訴人らが占有使用している本件換地(甲)の(二)を今後は自分達が利用する旨決すれば、被控訴人らは、本件換地(甲)の(二)の現実の利用から排除されることになるのである。

六被控訴人らは、本件換地処分は、不公正なもので違法である旨主張する(原判決九枚目裏八行目ないし末行)が、本件全証拠をもつてしても、本件事業を担当した区画整理事務所と特定の権利者との間に不明朗な関係があり、不可解な換地処分がなされたことを認めるに足りない。

第三よつて、被控訴人らに対してなされた本件換地処分には、これを取り消すべき違法はなく、その取消を求める本訴請求は理由がないから、これを認容した原判決を取り消して被控訴人らの請求をすべて棄却することとし、訴訟費用の負担について、行訴法七条、民訴法九六条、八九条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官村岡二郎 裁判官宇佐見隆男 裁判官鈴木敏之)

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